Feature タスクの仕事観

Feature– タスクの仕事観 –

院長×パーソナルトレーナー力(ちから)のバランス

“やった感”は、必要ない。

高木院長:詰め物だけ詰めても意味がないって話にしろ、腰だけ揉んでも意味がないって話にしろ、こうして話すとシンプルなことですけど、なかなか伝わりづらい部分ですよね。

荻山さん:“やった感”みたいなものを求めてしまんでしょうね。でもそれって対症療法に近いですよね。トレーニングにしても、筋肉をいじめ抜くみたいなことで満足してしまうケースも多いと思うんです。だから私とトレーニングをするとこんな軽い負荷でいいの?って言われる方がいらっしゃいますよ。歯を食いしばってやるような過酷なトレーニングはアスリートやボディビルダーになるなら必要だと思いますが、普通に生活する人が健康管理するうえでは必要ないですよ。

高木院長:痩せ薬的な分かりやすい価値が求められているのかなと感じます。そんなもの本当はないし、あったとしても身体にとっていい選択ではないと思います。

荻山さん:本当に必要なのは、自分で自分をケアするための知識と感覚を得ることだと思うんです。身体を正しく動かすために必要な筋肉って限られた一部分なので、そこの機能を高めることさえできれば、自然と身体はよくなっていくんです。でも身体の動かし方って感覚的な部分も多くて、独学だけでその感覚を掴むのはなかなか難しいんです。その感覚を得るために、僕みたいなトレーナーの指導を受けてもらうのが一番いいと思いますね。
高木院長: どんな風に指導するんですか? 僕もまだ、力の入れ方がしっかり分かってなくて。トレーニングのときの感覚が自分じゃ再現できないんですよ。

荻山さん:そうですね、自分でどこかの筋肉に力を入れて身体を動かすという感覚より、身体を動かしたらその動きの起点となる筋肉が自然と使えるようにするイメージです。筋肉の動きそのものを再構築していくというか。もう少しトレーニング繰り返していくとその感覚が身体に入ってくると思います。

高木院長:自分で動かすという考え方自体がちょっとちがうということでしょうか?

荻山さん:筋肉の使い方って、クセや習慣に近いところがって、刺激を与えていると、ああここ動かすんだって身体が勝手に認識するようになるんですよ。僕としては、その筋肉を使えるようにするっていうより、そこしか使えないような状態になるように指導します。

高木院長:ある意味、やった感とは真逆ですね。

噛みしめるのは、本来“異常”な動作。

高木院長: 少し話が変わりますが、いま僕が来てる服は、僕がスポンサードしてる横浜のラグビースクールのユニフォームなんです。このチームにスポーツマウスピースも提供しているんですが、荻山さんは、スポーツマウスピースにはどんなイメージを持たれていますか? 荻山さんも格闘技やられてましたよね。

荻山さん:僕がやってたのは打撃メインじゃない格闘技だったんで、毎回付けてたわけじゃないですけど、あったほうがいいんじゃないですかね。コンタクトスポーツには必要なものだと思います。

高木院長:世間的にはマウスピースの効果って、外傷予防と、噛みしめることによるパフォーマンスアップと、2つの側面で語られています。でも僕は後者の方はちょっと眉唾だと思っています。僕はスポーツ歯科医師学会というのに所属しているんですけど、そこでもパフォーマンスは向上しないなんじゃないのかって報告もありましたし。テニスプレイヤーがサーブやスマッシュをフルパワーで打つときにけっこう声を出すじゃないですか。声が出るっていうことは、歯を噛み締めているわけないんですよね。

荻山さん:同じ見解です。よかった、噛みしめるといいですよねって言われたらどう答えようかと思った笑

高木院長:一方で、ラグビーやアメフト、格闘技のようにコンタクトスポーツでは、強い衝撃に備えて身をこわばらせる必要があるので、その瞬間は噛みしめる必要もあるだろうと思っています。

荻山さん:それも同意です。コンタクトスポーツでも普段はなるべく力を抜いておいて、衝突の瞬間だけ噛みしめるのがいいですね。筋肉は緊急時に身を守ろうと収縮するんですが、最初から収縮していると、緊急時にガードに使うための残り代が少なくなっちゃうので。

高木院長:ことスポーツに限らずとも、噛み締めてる状態って歯科的には異常なんですよ。ちょっと専門的ですが、安静空隙という言葉があります。安静時に上下の歯の間にできる隙間っていう意味なんですが、この言葉があることからも分かるように、上下の歯が触れないのが正しい状態なんです。逆に、歯と歯が触れている状態はTCH(Tooth Contacting Habit)と言って、歯や顎関節に負荷をかけて良くないとされています。歯と歯が触れ合っているだけで良くないんだから、噛み締めるのなんていいはずがないですよね。

身体はつながっているのだから、治療家もつながるほうが良い。

荻山さん:お互い人間の身体に関わる仕事ですが、分野が違うと知らない話も多いですね。そしてそれが実は少し似た話だったり、相互に影響しあっているのもおもしろい。

高木院長:本当に。歯科の中でも、無関係に見えることが実はつながっているという話はよくありますが、分野をまたいでもそういう事例は多そうですね。連携し合えると治療の幅が広がりそう。

荻山さん:まさにそういう事例があります。最近、以前からトレーニングに来てくれていた美容皮膚科医の先生から患者さんを紹介いただいたり、逆に僕から先方の医院を紹介したりすることが増えていて。健康への意識が高い人を相手にする仕事なので、自分じゃ直接治せないお悩みを聞く機会もあります。そんなとき、それはあの人がなんとかできるかもって人がいると心強いですよね。

高木院長:人口が減っていくなかで、治療家の数はむしろ増えているので、生き残り競争は過酷です。そういう時代背景もあり、以前は“なんでも屋”的に診る先生が多かったのが、専門性を伸ばす先生が増えています。一人ひとりのプロフェッショナリティが高まっているので、その人たちが上手に連携し合えたら、より良いヘルスケアサービスが提供できそうです。

荻山さん:トータルでサポートできるネットワークができるといいですよね。我々トレーナーがこれからもっと勉強して、医師の先生方から信頼してもらえるようになって、みんなで目白~早稲田の人を健康にしようぜ的な動きができるとかっこいいですよね。

高木院長:健康って、ちょっとした贅沢ができることだと思うんです。必要な贅沢ってあるじゃないですか。毎日味気のないご飯だけだと生活が寂しくなるというか。好きなご飯を食べるために、好きなところに遊びに行くために、身体だったり、お口の中だったりのメンテナンスは必要で。そういうのをみんなでお手伝いして、地域を活気づけていきたいですね。
Profile
美濃 耕介

荻山 悟史さん身体作りに関する著書、監修書が多数ある敏腕トレーナー。目白のリッチモンドフィットネスクラブで勤務した後、2007年にパーソナルトレーナーとして独立し、2012年に自身のスタジオ『ボディテクトスタジオ目白』をオープン。小学生から80代まで幅広い人々にマンツーマンで指導されています。高木院長とは幼稚園のパパ友。

ボディテクトスタジオ目白
https://www.satoshiogiyama.com/

高木 翼

高木 翼タスクデンタルオフィス院長。朝日大学歯学部卒業後、医療法人社団・伸整会に勤務。インディアナ大学の研究員を経て、2018年4月に生まれ育った地である西早稲田・高田馬場でタスクデンタルオフィスを開業。「また来たくなる歯科医院」を目指して、患者様お一人おひとりと丁寧に向かいあっています。

文:田中ヤスタカ 写真:東 卓